昭和2年　Ｂ６判　P202　函少イタミ　本体背ヤケ　小口および両見返しヤケ、時代シミ

旧字旧かな遣い

“首都《メトロポリタン》、その名は美しい。（略）けれども、その反面はどうか、華やかであるべきその内面はどうか、天を魔す高楼は誘惑の巣であり、まばゆきばかりなる街頭の装飾は、虚栄の陥穽であり、さらにその裏面は恐るべき犯罪の策源である。（略）本書は、この魔都東京の仮面を剥いで赤裸々に解剖し、最後に上京せんとする人々のために自覚を喚起し、極めて親切にその進むべき最善の途を説いた。……”（本書「巻首に」より）

東京における貧民窟の生活、売春、不良少年少女、詐欺師など、犯罪実録風のエピソードを中心とした読み物。

目次：
第一章　総説
　｛犯罪の都、淫蕩の都、東京へ来るべからず／年々寂れ行く農村、之れ由々敷大問題｝
第二章　東京のドン底生活
　｛見るに忍びず聞くに堪えぬ貧民窟の状態／醜陋極はまりなき木賃宿の一夜／三万の立ん坊が寒空に挙げる悲痛の叫び／此の抵当として俺の女房を差入申候／（今晩の語物を抵当にする娘義太夫）／修学旅行の学生に東京の貧民町の状態を見せなさい｝
第三章　不景気と犯罪
　｛命を投げ出して行る馬方社会の強請／（滞納驚くべし百三万七千円）／幻滅の悲哀を感じて花嫁の自殺｝
第四章　再び故郷へ故郷へ
　｛祖先伝来の田地田畑家屋敷は皆他人手に／（土一升金一升、一坪千三百円）／女房俺が悪かった許して呉れよ／田舎者の怪気焔江戸っ子を煙に巻く／（郊外ではお百姓が旦那様だ）｝
第五章　淫風吹き荒ぶ東京
　｛親不孝の声張り挙げて籠の鳥の唄／深更男を求めんが為め迂路つく魔の女／全市に介在する怖るべき女魔の怪窟／（丸ビルに不良少女多し）／淫売料を貯金して其額千六百円／（医院の名美に隠れた売春窟）／写真機を利用して女を釣る偽大学生／可憐な女給君子の辿り来た泪の経路｝
第六章　此不良振を見よ
　｛満都を横行出没する不良少年少女団／（皮相な意見で改革するは悪い）／（十六歳のエビス不良団長）／これは意外だ、矢張りこれも不良少女／（貯金詐欺恋の女事務員）／活動写真館の暗闇で女の手を握る男／（美醜を種の色魔楽手）｝
第七章　朦朧車夫と悪宿引
　｛彼らは斯くして地方の人を瞞着する／倫落の女から許婚の男に出す血に滲む手紙｝
第八章　所謂モグリ周旋屋
　｛だまされて死生の境を辿り或いは倫落の淵に沈む／誘惑されて北海道の監獄部屋に生き残った男の物語／（監獄部屋の取締規則厳重となる）／五年前別れた千恵さんの恨み多き身の上／（外務省の役人が女給を誘かいす）
第九章　新聞広告に注意せよ
　｛油断のならぬ結婚媒介所、媒介所荒しの偽嫁偽婿／商船乗組海外移住の好餌も真に受けては甚い目に遭ふ｝
第十章　露天商人、押売、高利貸
　｛さくらを使ふは有りふれてゐるが今に騙される人がある／客に腹立たせ巧みに其処に乗じて売る手段／無人につけ込み脅迫手段で売る押売屋／残忍飽くことを知らぬ高利貸｝
第十一章　醜悪なる此事実
　｛学生の果の殺人／上京したのが破綻の囚／再び罪を犯すまで／馬賊を目的の悪少年／学生服の辻強盗／罪に繋がる万引一家／子爵名盗用の悪金融屋／女教員から売笑婦｝
第十二章　東京より田舎より
　｛東京の兄より／田舎の妹より｝
第十三章　東京へ来るならば
　｛最大の覚悟決心を以て東京へ来るべし／（就職口はたとへ多くとも）／不完全な学校が多い充分に選択せよ／苦学は仲々困難である夫れでも感心なものもある／金持って東京へ来るべからず／（富豪諸戸家の家憲）｝
第十四章　生きたお手本
　｛酒屋の樽拾ひから廿五万円の財産家／（故安田翁の貯蓄談）／軍服を半纏に着替へてたわし売る男／女の身で露天本屋より堂々たる書店の主人となる／（浅野總一郎氏夫婦共稼の巻）／日本女性労働史の最初の一頁を飾る女工／苦学で大学を卒業した巡査／人情浮薄な東京にもこんな美しい話がある／（女運転手で夫の学費を貢ぐ）／兄弟の学生協力して一家を復興す／勘当せられたモデル女の努力の結晶／バラック民の為め私財で復興町建設｝
第十五章　時代の産んだ新しい試み
　｛生活苦からの犯罪を一掃する貧民警察／（百万円投げ出して民衆大学）／少年少女のため専問の職業紹介所が出来る／偽学生撲滅のため徽章は学校で売る／世界各国の婦人の動き日本女性は前途遼遠／（女子に学問の門戸解放）／（日本最初の家政大学）／会員五千有余を算するウエイトレス達の会／（電燈を消してカフェーのダンス）｝