1983年初版 ページ部分14.9×19.5 P466 帯・カバー小口および遊び紙ヤケ大、時代シミ カバー上部イタミ
日本放送出版協会
監訳:別宮貞徳
“人類の歴史とともにそれぞれの土地と国々に華開いた音楽。半世紀にわたる音楽体験を踏まえてメニューヒンが披露する音楽と人間への深い省察。”(帯文)
“人間にとって音楽とは何か。優れたヴァイオリン奏者、歴史学者、人道主義者であるイェフディ・メニューヒンによって、私たちは世界各地の音と歌とハーモニーと器楽、過去の偉大な作曲家たち、同時代の伝説的人物たちを発見し、再体験するすばらしい旅へと連れ去られる。”(帯裏紹介文)
目次:
はじめに
1 音の息吹き
〔先史時代からシュメール、エジプト、中国の大文明、そして古代ギリシアにいたる音楽の起源を検討する。人類は骨、柳の樹皮、動物の腸など自然の中に見出した物や、弓矢、鉄、青銅などみずから作り出した物から、楽器を創造した。聴覚の進化について述べ、倍音の原理の利用を考察する。〕
2 花開くハーモニー
〔初期キリスト教聖歌のいわゆる単旋律から、豊かに噴出したルネサンス音楽までの西欧音楽の成長をたどる。ムーア人とキリスト教徒はスペインの領有をめぐって争い、十字軍が送り出され、異文化の衝突をひき起こす。音楽は多声部を融合したものとなり、和声の原理が確立し、管弦楽法が生まれ、記譜法はネウマという大まかなものから譜表と音符を使う今日の方式に発展する。インドでは装飾的な単声音楽の技法が完成する。〕
3 新しい声、新しい音
〔モンテヴェルディはオペラを生み出し、コレルリはソナタとコンチェルトを生み出す。そしてヴェネチアの町は、ルネサンスがバロック時代にむかうにつれて、音楽の都となる。
アフリカと新大陸の植民地化がはじまる。ヴァイオリンの製作は、ストラディヴァリとグアルネリの手によってクレモナで完全の域に達する。勢力はしだいに北方へと移り、リュリがルイ十四世の楽長となる。またヘンリー・パーセルは、イギリスのルネサンスの大家たちの最後の飾り、その影響はドイツ人であるヘンデルによって受けつがれる。〕
4 作曲家の時代
〔ヴィヴァルディ、バッハ、モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトなどが、ヨーロッパのだれもが楽しめる音楽の形式を確立する。名作、大作の作曲がはじまるが、こうした作品は、今日の演奏会でも依然支配的な位置を占めている。バッハは、平均律を確立し、対位法を完成した。モーツァルトは、最高の優雅と慎みをもって人間の感情を語る。ベートーヴェンは、作曲家とは自分自身の作風の創造者であるといい、シューベルトは、うちなる心に呼びかける。〕
5 個性の時代
〔工業の発達にともない、近代的なグランド・ピアノ、大編成のオーケストラ、大規模なグランド・オペラが出現。パガニーニ、ショパン、リストはロマン派のヴィルトゥオーゾの代表となる。都市が発達し、ポピュラー音楽、民族音楽はしだいに洗練されていく。国家が制定される。ヴェルディは、台頭するイタリアの文化の面でのヒーローとなり、ヴァーグナーは、西欧音楽のよりどころを断ち切る。チャイコフスキーその他の作曲家の作品の中にも、フラメンコなどのポピュラー音楽の中にも、民族主義が織り込まれる。ブラームスは民俗的要素との触れあいを保ち、シュトラウスのワルツがヨーロッパ全土を風靡する。〕
6 さまざまな道へ
〔自らの意思でヨーロッパから、また、心ならずもアフリカから渡ってきた人びとが北アメリカの住人となり、そこから新しい音楽の胎動が聞える。スティーヴン・フォースターの歌曲、スコット・ジョプリンのラグタイム、ジョン・フィリップ・スーザの行進曲は、育ちゆくアメリカの重要な一部分である。エジソンによる映画と蓄音機の発明が人びとの音楽の聴き方、好みを大きく変えていく。ヨーロッパでは、ドビュッシーの印象主義、シュトラウス、マーラーの壮大な音楽の出現により、旧来の慣習が崩れ去る。チャールズ・アイヴズに来るべき変革の兆しが見え、イーゴリ・ストラヴィンスキーの『春の祭典』は音楽に革命をもたらす。〕
7 道の世界へ
〔二十世紀に入ると、生活のテンポはますます早まり、音楽もめざましい勢いで新しい要素を吸収していった。ジャズは津波のように世間を席捲し、ジョージ・ガーシュインによってコンサート・ホールでも演奏されるようになった。アルノルト・シュエーンベルクは十二音技法をあみだし、エドガー・ヴァレーズは従来の作法にまったくとらわれない抽象音楽を創り上げた。一方、エーロン・コープランドは、ヨーロッパ諸国に比肩しうるアメリカ独自の音楽を打ち立てた。ビッグ・バンドの時代は、ハリウッドとストコフスキーの、またラジオとトスカニーニの活躍した時代でもあった。バリ島の音楽が新たに見直されるようにもなった。そしてアルバン・ベルクは、最後の作品、ヴァイオリン協奏曲によって過去を集大成し、同時に過去の伝統を振り捨てた。〕
8 音とは何か
〔ガラクタの山か、堆肥の山か、それが問題だ。音楽は迷子になったのか、それとももう一度花を咲かせるのか。ジョン・ケージは音楽の有効性そのものを問い直し、スティーヴ・ライヒは音楽をプロセスとしてとらえる。一方バックグラウンド・ミュージックとして聞き流されるとき、音楽は意識下の埋め草となる。技術革新は音楽の作り方や大衆への伝え方を一変させた。カナダのピアニスト、グレン・グールドは録音が演奏会に取って代わったと主張する。ポピュラー音楽も、シナトラの甘いバラードからプレスリーの激しいリズムと姿を変えてきた。そしていま、若者たちは古い時代の音楽や異文化の音楽を再発見しはじめ、古典、ポピュラーの別なく情熱が本来の役割を取りもどしつつある。ベーラ・バルトークは芸術家の姿勢をあくまで貫きながら、しかも大地と人間に根ざす自らの原点を決して見失わない。〕
訳註
謝辞
訳者あとがき
図版・写真目録
参考文献
索引