昭和6年 四六判 P255 全体に経年によるヤケ、汚れ、イタミ ページ各所に赤鉛筆引き線消し跡 末尾広告ページにラベル貼付
旧字旧かな遣い
古代エジプト、ギリシャ、ユダヤその他の言語観、近世日本の国学、近代の言語学研究、etc…。言語の起源・変化・音声・文字・系統・方言・修辞・言葉遊び……といった、言語に関する古今東西の観念や説を通覧。
「プロレタリア言語観(※)」と著者自身が呼ぶ、国語の統一標準化に疑義を呈し、大衆の為の考慮を訴える立場から、まず言語観の歴史的展開を顧みる、というのが本書執筆の動機となっている。
※斑猫軒注:ここで用いられる「プロレタリア」の語は「労働者」「無産階級」といった限定的な用法というよりも、権威による制度化に大衆の立場から抗する、といった広い意味で用いられていると考えられる。
目次:
緒言
プロレタリア言語観の抬頭―四千年にわたる言語観史の宏大―展開段階の闡明―アリアン言語学史と一般言語学史の取入れ―日本の学風立て直しの必要
第一章 神秘観
文字に対する驚異―古記録の言語崇拜―プサムメチコスの実験―神授説―眞淵 と守部―エホバ曰く―英語雑駁の由来作話―言霊説―高橋残夢の「霊の宿」―阿字本不生の説―「大日本言霊学」―名詮白性とタブウ―音義説又は象徴説―徳川期音義派の沿革―西洋の音義説―象徴説の価値―「アダム語」研究―オグデンリチャアヅと本居宣長―「象徴形式の哲学」
第二章 因縁観
「あづまはや」のお歎き―ピラミツドは「高さ」の義―俗語源―プラトンの語源説―松永貞徳と卜部兼俱―益軒の分析的見方―白石の「東雅」の識見―ヴヲルテエルの嘲笑―鈴木朖の「雅言音声考」―語源学―大島正健と松岡 静雄―「雅言音声考」の四類―前世紀までの四つの説―スヰイトの「言語の歴史」―ホイトニイとマクスミュラー姿を音に翻訳すること―比較法―大著述の続出―語彙蒐集事業―最上徳内の語彙集―金澤博士の日韓比較―各国語の系統論―西洋の古い系統論―系図表示法の争ひ―木村鷹太郎等の日本語系統の説―語原意識と言語生活
第三章 固定観
兼行の古風思慕―退化観―雅俗対比の観念―シュライヘルの有機体説―同大人の言語史墮落史説―進化観―延言説の当否―ボップの単音節説・膠着説・機械法則説―形態的言語分類法―分類法と進化段階との結合―道具は簡易化―簡易化は言語の進歩―安住境―ボズエルの固定観―ベイコンの拉甸尊重―我が言文一致論―字本位―日本の文字尊重―文字本位の西洋言語学時代―我が音韻論の文字本意―テニハ論の文字本位―仮名遣論―五十音図尊重―荻生徂徠の文字本位―「ABCは口の形」の愚論
第四章 資格観
「今昔物語」の言葉咎めの話―都中心―東鴉の鳴き合へる如―「浮世風呂」の言語争ひ―チヨオサの尼の仏語―東京語本位―フランス学士院の努力―プロレタリア言語―標準語―二律背反―白石の五方言観―各国の標準 語成立過程―首府の言語の長所―特殊語―個人の三言語層―特殊語の当体―隠語―不良少年・香具師・職人・おかみ―俗用過度と優雅過度―インテリゲンチアの特殊語―漢文尊重―アイヷンホウ」―外国語の無理乱用―無用の新造語―文体観―文体は人―バイイの文体研究
第五章 氛圍観
孟子の言語学習法―方言愛―方言の意義―方言研究文献―方言執着―二枚舌―言語教育論―釋迦の方言使用―耶蘇の土語使用―自由観―破格が本来との説―バイイの自由反対説―上田秋成の自由観―新しき整理―模倣性―言語起源論にも有力―ピルスベリの見方―幼児の模倣性―選択的模倣の段階―私淑崇拝と感染模倣―児童語の研究―模倣性は保守的勢力
第六章 玩具観
「十八史略」劉秀の洒落―漢文学の言語観察不振―修辞法―古代修辞学は遊戯を認めず―近世修辞学と詩学の言語遊鉞―リズム―身体運動のリズム―劇のリズムの起源―強弱・高低・長短のリズム―平仄―詩脚―押韻法―折返し―押韻法の色色―白韻の主張―頭韻―地口行燈―駄洒落―沙翁の洒落―英人のヒウマー喇石と佐佐木邦―俳諧―一休和尙―英独仏の駄洒落-- 駄洒落の価値―字なぞ―廻り文―省略と字なぞ―芝居の芸題―新漢字の考案―あて字の東西
第七章 音響観
古事紀の表音漢字―古代日本語音の複雑―ことば―諸国語で言語を意味する語の原義―「書 く」と「搔 く」―音博士―悉曇学の影響―韻鏡―ギリシアの音声研究―音響学―ヘルムホルツの「音覚論」―レイリ男の「音原理」―田中正平・田邊尙雄の音楽理論―正音学―言語音研究の三分野―梵唄・「玉淵集」―音声学と声音法―音韻論と音声学―音声学―旧言語学の音韻法則―ジイフエルスの「音声生理」―ベルの「視話法」―ベエンケの「音声の機械」フヰエトル・岡倉・フランケの言語教授改良論―国際音声学協会―国際実験音声学協会―日本音声学協会―ラヂオの影響―音声だけが言語でない
第八章 道具観
項羽と書―クヰチリアンのよき道具―ステイイブンの着物観―思想と言語との二元を否定する説―道具観の進化―容易化―形態四種―音韻の容易化―同化・音便ー音韻悪化―不精と精力経済―文字の容易化―合理化―文字の合理化―文法の合理化―論理と文法―類推力―動詞活用の種類―類推作用と言語学―語彙上の類推―音韻上の類推―整理力―日本の人種―日本古音と記紀万葉―五十音図表成立―方言の音と五十音図―文体の整理―人心の活躍が源泉―主義化―人為的努力の弊―態度の改善―音声学と正音学との並行―綴字改良の不用意―文字は音声の奴隷でない―文法の主義化―語彙の主義化とフランスの活力―非人化―マルクス的言語学―未来派の詩に似た論文形式―人性は多面体
結語
凡て一方観を許さず―二律背反の支配―言語観研究の将来
附録
〔第一〕言語陶冶の諸問題
〔第二〕方音研究要項二三
〔第三〕非科学的と疑はれる事柄二つ
〔第四〕外国の人名・書名などの主なるもののロオマ字での表し方