1997年 A5判 P240+索引P6 カバー端少イタミ 小口少汚れ 裏遊び紙古書店ラベル剥がし跡
“宇宙空間を踊り動きまわっている無限数のウイルスの中でも、エイズウイルスはエイズという不治の疾患、痛手によって他者ウイルスの存在を否応なくわれわれに知らせたのである。それは身体機能を破壊したのみでない。身体概念までくつがえしつつあるわけで、この病原体は医学、病理学をこえて他者のメタファーともなる。要するに、他者の受入れ、他者との異種交配、ハイブリッドなしに自己同一のなりたたない同時代文化の象徴になるのだ。”(カバー文)
当初、エイズを扱った作品やエイズ公表者の文学・芸術を中心に論ずる予定だった著者の考察は、そこから論を進めて、個人や社会にとっての「他者」あるいは異物のメタファーとしてウイルスをとらえ、フェミニズム、ミステリー、カタカナ語、死といったテーマに言及。
デリケートな問題に触れつつ「ウイルス的他者の受入れなしに自己同一がありえない」というモチーフに沿って、90年代的言説の一側面を垣間見る評論集。
目次:
【プロローグ】
最初のプラン―エイズ・ゲイ芸術
他者の象徴HIウイルス
【1部 他者の世紀 ―変容/六つのケース・スタディ】
工イズ芸術 ―極微のセンサー、極微のセクシャリティ
{ペスト文学「デカメロン」―病疫と文化/ロマンティックな病い―結核/恥辱の刻印―癌/魅惑的で甘美な病い―エイズ/極微のセンサー、極微のセクシャリティ/ウイルスの「トルーイズム」/バスキア、ヘリング、メイプルソープ―ハイテク時代の身体性/ジャーマン、古橋―針の上で踊った天使/エイズ文学「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」/ギベールとフーコー/「エイズ・ゲイ芸術」の他者性/エイズ芸術第二ラウンド―アジア、アフリカ}
フェミニズム・レッスン ―性イメージの戦場
{フロイトとフロイト批判/ライヒのオルガスム論と六〇年代文化/ホモセクシャル感覚「キャンプ」/フェミニズムの発生/男(人間)の未来は女だ(ルイ・アラゴン)/「男」こそ第二の性である/父権的性批判/女を演じる女/トランス・ジェンダー、性の他者/電子メディアのセクシャリティ/ラディカル・フェミニズムとその後/脱構造―ある解体と情報論/男・ジェンダー・フェミニズム}
ミステリーを読む ―社会病理と芸術
{炭素系生命体への珪素系異物侵入/社会病理と芸術/ジャック・ザ・リパーと現代/サイコパス的通り魔の増加/芸術が救い、治癒となるとき}
カタカナ語感覚 ―またはネオ言魂論
{クリオール現象と外来語/揺れるマージナルライン/ネオ言霊の出現/白秋・賢治のホットからクールへ}
死 ―「死ぬのは何時も他人」(マルセル・デュシャン)
{死は生粋のヴァーチュアル・イメージだ/バリ島では、死を祝う/死が眠りと同じだった時代/死の恐怖/ブラックユーモアと死/自殺幇助者「ドクター・キボキアン」の“勝訴”/補遺「完全自殺マニュアル」へのコメント ―または「新通過儀礼マニュアル」のすすめ}
死と美術 ―表層化する死、身体性
{死の作家・ウォーホル/クレメンテの描くサマディの世界/密教と密芸術「マンダラ」/パフォーミング・アートの先駆「チベットの死者の書」/密教VSカトリック美術(イコン・磔刑図)/「メメント・モリ」、ヨーロッパ・死の美術}
【2部 エイズ意味論 ―情報の内宇宙化《インナートリップ》】
エイズとはどんな病気か
{起源説/RNA・遺伝子情報異変/地球病エイズ/エイズ年代記、エイズ言説}
ウィルスの暗喩、エイズ意味論
{イメージ作用の不思議/エイズ・メタファー、「ネガ」から「ポジ」へ/愛病とウイルス共有のすすめ}
情報の内向化と他者の世紀 ―おわりに
あとがき
参考文献・索引