
1987年初版 四六判 P258 カバー少スレ、背ヤケ大 裏遊び紙ラベル剥がし跡
“百物語の法式化は、近世町人によって点ぜられた開化の火が、闇のなかの自然霊を克服してゆく儀式であった。しかし、その法式では一話ごとに蝋燭の火は一つずつ消されてゆく。すなわち、一つには禁忌の〈犯し〉の方法によって、近世人たちが自分たちの〈夜〉をとりもどす―〈闇〉はまた聖なる世界でもあった―儀式でもあった。”(カバー紹介文)
“なまじの現実よりも夢であることによっていっそう生き生きとした物語世界の存在。開化してゆく人間の意識と零落してゆく自然霊の怨念との交錯と対比。〈王化〉の力学に対する〈化外〉〈異界〉の蜂起と反攻。現世と幽界の交錯する雨と月の刻。聖なるケガレによって開示されるハレの空間。
都賀庭鐘、武部綾足、上田秋成、山東京伝、滝沢馬琴らの豊穣なる文学言語がいま、あざやかに読み解かれる―”(カバー裏紹介文)
目次:
怪談の論理―文学史の側から
{三月十八日の夢/闇の語り手たち/闇・夢・そして怪異文学の成立/禁忌と犯し}
幻語の構造―雨と月への私注
{宗貞の韜晦/二重な心性の中のことば/「わやく」の両義性と『雨月物語』の言語/幻語―その表層と深層/「恨みの秋」/連鎖の物語・水の秩序/キイワードとしての「雨」と「月」/雨月の夜の光と影/幻語の方法}
奇談作者と夢語り―秋成・庭鐘・綾足たちの世界
{夢みる老人/庭鐘の「紀の関守」の物語/夢託の思想/「愛」という主題の出現/夢語りの構図/夢現象とその表現/宣長の「夢」理解/綾足の「よみの巻」/深草という闇の空間/境界―夢語りの必然性として/冥婚の幻想/綾足、この夢想家の論理/喜多村金吾の恋}
狂蕩の夢想者―上田秋成
{余斎乞食/三余斎から天罰七十余斎へ/故郷喪失の論理/「狂蕩」―聖と俗のはざまにて}
亡命、そして蜂起へ向かう物語―『本朝水滸伝』を読む(Ⅰ)
{東宮出奔/反勧懲小説としての『本朝水滸伝』/古代中央政権と亡命者たち/連帯する異族王たち/大納言姫君の密通/過激なる虚構/山中他界の神々の蜂起}
遊行、そしてまつろわぬ人びとの物語―『本朝水滸伝』を読む(Ⅱ)
{作者と国家―綾足の父について/異説の中の津軽校尉/鼻彦軍談/闇の物語としての「正史」/〈倭建命〉モチーフの問題/浮び上る遊行の伝統}
怪異の江戸文学―世の中は地獄の上の花見かな(一茶)
{江戸文学と「悪」/「地獄」と「花見」/一茶の〈人鬼〉認識/京伝の「美少年」と「女侠」/『桜姫全伝曙草子』の世界/松平定信の「怪異」事件/怨念の構図とその現実的根拠/アニミズムの復権/狂伝の骸骨モチーフ/化政期江戸文学の原質をめぐって}
稗史と美少年―馬琴の童子神信仰
{「近世説美少年録」のこと/馬琴の『美童」論/美少年―終末論的世界として/『封神演義』と『八犬伝』}
あとがき
初出一覧