
昭和63年初版 ページ部分12.0×22.2 P133 函カバー背少汚れ 本体背僅汚れ 月報付
“1917年の、もっぱらモダニズムを推進していたある雑誌で初めてカフカを読んだときのことを、私は決して忘れないだろう。その編集者たちは、ほとんどすべての青年に特有の新意匠を凝らすことに熱中していた。そのような印刷されたこけおどしの中に混っていた、フランツ・カフカという署名のある一篇の寓話は、私には、まだ若い従順な読者であったにもかかわらず、言いようもなく無味乾燥なものに思われた。長い年月を隔てたいま、私は敢えて自分の弁解の余地のない文学的鈍感さを白状する。啓示を前にしていながらそのことに気がつかなかったのだから。
カフカの場合、推敲は創意ほど賛辞の対象にはならない。彼の作品には人間はひとりいさえすればいい。肝要なのはプロットと環境であり、寓話の展開でも心理的洞察でもない。だからこそ彼の短篇物語のほうが彼の小説よりも優れているのであり、だからこそこの短篇選集はかくも特異な作家のスケールを十全に示していると断言する正当性がある。”(函カバー裏紹介文)
目次:
序文(J・L・ボルヘス)
禿鷹
断食芸人
最初の悩み
雑種
町の紋章
プロメテウス
よくある混乱
ジャッカルとアラビア人
十一人の息子
ある学会報告
万里の長城
月報:ふたたび、野心家カフカ(池内紀)