昭和57年 A5判 P382 カバースレ、背ヤケ、端イタミ、内側時代シミ 本体表紙端シミ汚れ 小口ヤケ、汚れ
池田浩士、好村冨士彦、小岸昭、野村修、三原弟平
各章でカフカやその作品に関する報告(論考)を提示し、その内容をたたき台として討論をおこなう。
“フランツ・カフカはこれまで、ユダヤ教や危機神学あるいは反危機神学などの宗教的な立場から、シュールレアリズム的・実存主義的な立場、精神分析学的・心理学的な立場、社会学的・マルクス主義的な立場、あるいは構造分析的・実証伝記的な立場などから、論じられてきた。こうした、さまざまな分野からのさまざまな解釈が、からみあいたえず揺れ動いている現象それじたい、カフカが二者択一的な世界に立っていなかったことを、しめしているのではないか。 とすれば、そこから完結したカフカ解釈を提示するというのではなく、カフカがどのように文学のリアリティを獲得していったかをさぐりながら、カフカへの接近をこころみることにしたい。”(カバー紹介文)
目次:
【I章 環境界性としてのカフカ】
報告(小岸昭) {創造の世界としての境界/境界都市プラハ・境界人間カフカ/日常性の崩壊・日常性の勝利/ジュジュギュイ的世界/都市の境界化/下位のものへの視線}
討論 {プラハの都市構造、都市の境界性/ヴェルフェルとカフカ/『判決』の表題/『判決』の作品構造/イディッシュ劇、カフカにおける身振り/アメリカ/下位のものへの視線/レーニ、第三世界/オドラデク/境界状況小説としての『城』}
【II章 カフカにおけるユダヤ人性】
報告(好村冨士彦) {カフカはユダヤ人作家か/伝記的なこと/ユダヤ教〈正統派〉の解釈/もうひとつのユダヤ的解釈}
討論 {ユダヤ人性とは何か/マイナー文学/イディッシュ劇体験/カフカとヨブ記、弁神論/ベンヤミン の「カフカ論」/ブロッホとカフカ/『掟の前』/サンチ ョ・パンサ/異端者の系譜}
【III章 時代のなかのカフカ】
報告(野村修) {ブレヒトとカフカ/『訴訟』/『城』}
討論 {恥ずかしさ/忘却/秘教化、コード化/理性人と芸術家/カフカ解釈者/自伝の試み/あたかも……}
【IV章 「事実-観察」の諸相 カフカとその作品形式】
報告(三原弟平) {「事実-観察」/乳の起立/パースペクティブの逆転―演劇的叙事/長広舌―依存の構図}
討論 {表現主義と「兄弟殺し」/パラス/グライテンデス・パラドックス/パースペクティブの逆転/長広舌/共犯関係/『城』における文書}
【V章 小説様式の側面からみたカフカの表現】
報告(池田浩士) {具体性の喪失=具体性の獲得/カフカの表現における視線の問題/〈謎〉とその延命/主人公からの解放}
討論 {具体性の獲得/読者像/探偵小説/ドストエーフスキーとディケンズ/感性による参加/「期特の地平」/バルタイネーメン}
【VI章 カフカをめぐって】
討論 カフカとエロティシズム {カフカの女性像/子供/サディズム・マゾヒズム/流刑地/マゾヒストの国家観}
1 カフカのディケンズ
2 長谷川四郎と力フ力
3 中島敦とカフカ
4 花田清輝とカフカ
5 喜劇的世界の脇役たち
6 カフカの楕円世界